ひとりの利用者さんとの関係だけでなく、他の利用者さん、他のスタッフさんが関わってくると、双方の気持ちを考えないといけないと思うと、とっさの判断ができないことがあります。私は最初、先輩介護士はよく嘘をつくなあと思っていました。介護で必要なのは相手のことを考えて、うまく嘘をつくことです。でも、それは、言葉かけ、声かけと言って、介護士にとって一番大切な技術であることを知りました。介護は人と人を介する(仲立ち)仕事なので、利用者さんを興奮させたり、怒らせたりしないで、お互いおだやかに仲良く生活するようにして差し上げることが主な仕事だと思っています。
「勘違いですよ。」 (NG)
施設では人の服を間違えて着ることは、たまにあることです。洗濯物を分ける際に間違えてしまう場合もあります。洗濯物を間違えて区分けすることは、介護士にとってやってはいけないことです。利用者さんに洗濯物の区分けをお願いしても、最終確認は介護士が行い、違う人のところに洗濯物をもっていかないようにしないといけません。やはり、自分の服を他の利用者さんが着てると「あの人が私の服を勝手に着てる!」と怒られることになります。実際はその利用者さんは自分の服を着ていて、怒った利用者さんの勘違いかもしれません。そういうときに本当のことだといって「勘違いですよ」と言ってしまうと、「私がうそをついているって言うの!」と利用者さんの逆鱗に触れることになります。
「〇〇さんの服は私が預かっているから安心してください。」
「よく似ていますね。でも、〇〇さんの服は私が預かっているから安心してください。昨日、私が洗濯をしたからよく覚えています。あとでお部屋のお持ちしますね。」と言葉かけしてみたらどうでしょうか。勘違いされた利用者さんも悪い気はしません。怒る理由がなくなるのです。 「うっかり勘違い」「似ているから勘違いしてもしかたない」というような逃げ道を用意しておけば、利用者さんも納得しやすいです。
「服が汚れたから着替えましょう。」
もちろん、この場合、人の服を間違って着ているのかもしれません。そういう場合は、「服が汚れたから着替えましょう。」と服を着替えていただいて、その服を洗濯して、その服の持ち主に返してあげます。 その利用者さんを攻めなくてもよくなります。 コミュニケーションで失敗しないためには「否定しない」ことを心がけでおくことが必要だと思います。利用者さんと1対1の関係の場合においては、肯定してあげることもいいですが、複数の利用者さんを相手にする場合は、こちらの利用者さんを肯定することが、他の利用者さんを否定することになります。否定もせず、肯定もしない、白黒をはっきりさせない、曖昧なグレーゾーンでの対応が必要な場合も出てきます。
介護では自己覚知といって、自分がどういうことで感情が揺さぶられるかを知って自分の感情をコントロールすることです。すごく難しいと思います。やはり、利用者さんから自分が傷つく嫌な言葉を言われると頭にきます。かといって、利用者さんが病気(認知症)だから仕方ないと思うと、人格的な交流ができなくなるというジレンマにいつも陥っています。介護ではお互いの人格を尊重する人格的な交流を理想としますが、利用者さんの人格がいい場合はいいですが、なかには介護士のことを小馬鹿にしたり、いじめる利用者さんもいるわけです。介護士という職業は本当に難しい職業だと思います。

