前頭側頭型認知症の原因とピック病の違い
脳の前頭葉(ぜんとうよう)や側頭葉(そくとうよう)の前部だけが委縮することで発症する認知症が「前頭側頭葉(ぜんとうそくとうよう)変性症」です。前頭側頭葉変性症のなかに、前頭側頭型認知症、意味性認知症などがあります。前頭側頭型認知症は進行性の異常行動や認知機能障害があり、それらによって日常生活に支障があります。
以前、前頭側頭型認知症のことを「ピック病」と呼んでいました。患者の脳の神経細胞のなかにタウタンパクというたんぱく質が蓄積された「ピック球」という異常な物質が発生していたからです。ところが研究が進むにつれ、前頭側頭型認知症のなかにはピック球が見られないケースもあることがわかったのです。
現在では、ピック病は前頭側頭型認知症の一つとして分類されていますが、前頭側頭型認知症の8割はピック病です。前頭側頭型認知症は65歳未満での発症が多く、発症平均年齢は49歳というデータもあり、若年性認知症の一つです。男性、女性どちらでも見られ、患者数はアルツハイマー病の10分の1ほどです。
前頭側頭型認知症の主な行動障害
前頭葉は思考や判断に関わり、脳全体をコントロールしています。コミュニケーション、記憶を司り、物事を判断したり、計画を立て実行する機能を持っています。側頭葉は言語、記憶、聴覚に大きく関わっています。言葉や物事の意味を理解することをコントロールしています。記憶を司る海馬(かいば)に繋がっています。
前頭葉の神経細胞が委縮すると、脳のほかの領域をコントロールすることができず、さまざまな周辺症状が現れてきます。身だしなみに無頓着になり、他人にも横柄に態度をとったり、いつも落ち着きがなく動き回り出します。行動は基本、身勝手で、平気で嘘をつきます。それまで本人が持っていた性格から激変します。周囲の人との社会的な関係が保てなくなります。
何か聞いてもすぐに「わからない」と答えたり、話の途中で出て行ったりする「わが道を行く行動」をします。前頭側頭型認知症が進行すると、興奮して衝動的に暴力を振るう、堂々と万引き行為をするなどの逸脱行為や反社会的な行動が見られます。本人には自覚がありません。
「常同(じょうどう)、強迫行動」は、毎日同じ場所に出かける、いつも同じ場所に座る、同じ服を着るといった行動をすることです。時刻表のように決まった時間に決まった行動をします。脱抑制が伴うと、その途中に赤信号があっても信号無視し、他人を押しのけても進むといった行動に至ります。
脱抑制とは、状況に対する反応としての衝動や感情を抑えることが不能になった状態のことをいいますが、患者は外的な刺激に対して衝動的に反応したり、内的な欲求を制御できずに本能のおもむくままに行動します。
前頭側頭型認知症の場合、記憶や見当識(けんとうしき)は比較的保たれるので、一人で外出しても迷子になることはありません。その他の症状として、同じものを食べ続けたり、甘いものばかりを食べる食行動異常や性器の露出などの抑制のきかない性行動異常も見られます。
前頭側頭型認知症の特徴的な症状と進行
前頭側頭型認知症の進行経過は平均6年ぐらいです。初期から人格の変化、行動の変化が現れます。いつも同じ場所に行く、同じ時間に同じコースを繰り返し歩き回る「周徊(しゅうかい)」行動などの常同、強迫行動をとります。同情できない、怒りっぽくなるなど周囲との社会関係が結べません。他社への共感性を失います。また、落ち着きがなくなり、万引き、無銭飲食などの反社会的行動などの抑制が効かない行為が目立つようになります。
中期になると内容のある話ができなくなったり、相手の言葉をオウム返しに言ったり、言葉が出なくなったりします。様々な言語障害が現れます。自発性も低下してしまいます。
末期になるともっと進行が速くなり、心身ともに衰弱してしまいます。無言になったり、食欲低下による体重減少、認識機能と身体機能が低下します。精神も荒廃し、筋肉が固まって関節が動かなくなり、運動機能が低下する「拘縮(こうしゅく)」になります。

