周辺症状(BPSD)のなかの行動症状
認知症の周辺症状(BPSD)のなかの行動症状は、記憶障害、見当識(けんんとうしき)障害、実行機能障害などの中核症状がストレスや環境の変化を受けて、攻撃的な行為などの行動を起こすことです。
たとえば、突然、目の前のティッシュをむしゃむしゃ食べ始めます。「お母さん、何してるの?」家族にとっては驚きとショックに襲われるのではないでしょうか。昨日まで何もなかったのに、ある日突然現れるのが周辺症状の行動症状です。お母さんにはティッシュが食べ物がどうか分からなくなったという中核症状の失認や判断力の低下が原因になっています。
周辺症状の背景には必ず何かしらの「理由」があります。一見、理解できないような行動の背景にある「なぜ?」を考えてみることが介護には必要となってきます。
介護サービスには「利用者本位(りようしゃほんい)」という言葉があります。援助する側の価値観や価値基準で援助するのではなく、利用者の立場、視点に立って援助することですが、その本人の気持ちに寄り添って理解できれば、ケアする家族の気持ちも変わってくると思います。そうなれば本人も穏やかな気持ちになって症状も減ってくることもあります。
おもな行動症状の意味と原因
多動、徘徊
介護者に大きな負担を与えているのが多動や徘徊ではないでしょうか。多動とは、そわそわしてじっとしていられず動き回ることです。徘徊とは、あてもなく歩き回ること、うろうろと歩き回ることです。徘徊は家の中だけではありません。家の外に出て戻れなくなります。用事があって出かけたのにその用事を忘れたり、途中で道順を忘れるなどの「記憶障害」や、自分のいる場所がわからなくなる「見当識障害」が原因になっています。
施設では夕方になると夕暮れ症候群が始まります。夕暮れ症候群というのは「家に帰る」と言って施設から外に出ようとしたり、多動、徘徊を始めたり、興奮したり、奇声をあげたり、壁を叩いたりなどの不穏な行動や奇妙な行動が見られる状態のことです。
暴言、暴力
対応が難しいのが暴言、暴力です。怒りっぽくなって、大きな声で怒鳴ったり、奇声をあげたり、介護者に手をあげたりします。暴言、暴力を振るう理由は本人それぞれです。脳血管障害の後遺症で言葉が出づらくなって、つい手が出てしまう場合もあります。前頭側頭型認知症の方の場合はコミュニケーションが難しくなって、もどかしさから感情を抑えられなくなって、奇声をあげたりされる場合もあります。
無為、無反応
無為、無反応は暴言、暴力とは真逆の症状になります。無為とは何もしないことです。無反応とは反応がないことです。日常生活で何もしなかったり、家族や介護者が呼んでも、話しかけても何も反応しないことがあります。レビー小体型認知症では、意識障害によってぼんやりして、声かけにも反応が鈍くなります。
不潔行為
不潔行為とはトイレ以外のところに放尿したり、オムツを外して排泄したりすることで、家族にとって一番ショックなのが、弄便(ろうべん)だと思います。弄便とは排泄物である大便を直接手で触ったり、もてあそぶ行為のことをいいますが、決して楽しんで遊んでいるわけではありません。ご本人にはそれなりの理由があります。排泄の失敗の不快感を自分でなんとかしようとしたり、判断力の低下が原因の場合もあります。
食行動異常
食行動異常とは摂食障害ともいい、極端に食べ過ぎてしまう「過食」や「大食症」、逆に食事をとらない「拒食」「食欲不振症」などを合わせて呼んでいます。 アルツハイマー型認知症には記憶障害のため、食べたことを忘れて何度も食べる「過食」や失認による「異食」、嗅覚の障害による「食欲不振」などが多いです。前頭側頭型認知症では甘いものばかり食べるなどの食の嗜好の極端な変化があります。血管性認知症では運動麻痺のため食事に時間がかかり、むせることも多くなります。
性行動異常
介護施設では男性の利用者様の場合、女性介護士に対するセクハラも問題になっています。ベテラン介護士にもなれば、さらりとかわすこともできますが、新人女性介護士の方は大変です。一般の家庭でも、おじいちゃんが息子のお嫁さんに抱きついたり、お風呂をのぞいたり、下着を持ち出したりなどの性行動を抑えきれなくなることがあります。あからさまで周囲の目を気にしない行動の裏には、日ごろの孤独感などの不安から妄想が隠れていることもあります。
前頭側頭型認知症では前頭葉の障害による「脱抑制」という症状の場合があります。前頭葉は脳全体のコントロールタワーなので、前頭葉の働きが低下すると脳のほかの領域へのコントロールができなくなり、さまざまな異常行動が現れます。状況に対する反応としての衝動や感情を抑えることが不能になります。つまり、ご本人は外的な刺激に対して衝動的に反応したりします。また、内的な欲求を制御することができずに本能のおもむくままに行動したりします。
レム睡眠時行動障害
レム睡眠時行動障害というのはレビー小体型認知症の方の代表的な症状です。人間の睡眠中は深い眠りと浅い眠りを交互に繰り返しています。浅い眠りのレム睡眠の時は筋肉の動きは抑制された状態で夢を見ます。ところがレビー小体型認知症では脳幹部に障害を受けることによって抑制が効かなくなり、夢の内容に反応して実際に行動してしまいます。何かをつかもうと手を伸ばしたり、室内を歩き回ったり、窓に向かって突進して大けがをすることもあります。怒鳴ったり、暴言を吐いたり、そばで寝ている人を殴ったりすることもあります。
介護拒否
認知症が進むと突然、介助しようとする手を払いのけたり、強く拒否するようになることがあります。記憶障害によっていつもの介護者を忘れてしまうために、見知らぬ人に触られたり、ケアを受けたりする恐怖と不安の現れから介護拒否が出てきます。また、介護する人の言葉が理解できずに何をされるか分からないという恐怖から拒否することもあります。
施設では介護拒否はあたりまえで、いかにうまく声掛けして、納得していただいて、介護することができるかが介護士の腕になります。

