認知症の行動制限における行動コントロールの倫理
介護現場では認知症の方が暴力などの攻撃性が現れたり、興奮状態に陥ったリ、徘徊を始めてしまった場合に、身体拘束や薬剤によって、認知症の人の行動をコントロールすることは倫理的に許されるのかどうかという「行動コントロールの倫理」の問題があります。もちろん、身体拘束は許されるものではないというのが、今の介護現場の認識です。これまで、あまりにもひどい身体拘束をしてきたので、その反省も兼ねているのかもしれません。行動制限は身体拘束だけではありません。薬を飲ませて興奮を抑えるのも行動制限のひとつになります。また、声掛けで「ここにいてください」と命令するのも、言葉による行動制限です。病院では点滴の針を抜かせないために身体拘束する場合があります。医者、看護師、介護士と職業によっても身体拘束に対する考え方が違うように感じます。介護士間の間でも違ってくる場合があります。
自律尊重原則と善行原則の対立
行動制限の論点のなかに、自律尊重原則である「拘束から自由になることはよいことだ」という倫理的価値と、善行原則ではある「転倒、骨折のリスクを減らすことはよいことだ」という倫理的価値は対立し、ジレンマを生じることになります。介護現場でも、拘束はしたくないが、されど転倒させたくない、そういうジレンマとの闘いです。拘束しないで、転倒させない工夫をみんなで考えることが大切だと思っています。本当なら1対1で利用者さんと関われればいいのですが、1人で複数の利用者さんを見なければいけない状況では、転倒のリスクをゼロにすることは本当にむずかしいと思います。
拘束の弊害
本人の意に反して拘束すると、筋力低下や関節拘縮などの身体的弊害を生じますが、それ以上に、怒りや恐怖、不安、屈辱などの精神的弊害の方が大きいです。精神的弊害が大きいとさらに認知症の進行を速めてしまいます。転倒のリスクを回避をしょうと柵をしたために、柵の上から転倒したり、車椅子ごと転倒することもあります。また、嫌がる利用者さんに対して無理やり拘束するわけですから、拘束する介護士の方の気持ちも複雑です。社会的にも施設に対する不信や偏見を引き起こしてしまいます。
身体拘束の例外3原則
法律的にみても、憲法18条および31条、刑法220条は不当な拘束を行うことを禁じています。介護保険法第87条においては、入所者等の生命または身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束や行動制限を禁じています。この「生命または身体を保護するため緊急やむを得ない場合」というのが、「例外3原則」と言われるもので、1切迫性、2非代替性、3一時性の3要件をすべて満たすときだけ身体拘束は 例外的に認められるというものです。その場合でもできる限り最小限の拘束に留める必要があります。また、身体拘束廃止委員会を設置して廃止に向けた検討をしなければなりません。また、その議事録を必ず記録に残さないといけません。身体拘束する場合には、本人や家族に、目的、理由、時間、期間を説明して同意を得なければいけません。そして当然のことですが、要件に該当しなくなった場合は速やかに拘束を解除しなければなりません。

