認知症ケアの倫理と生命の尊厳(SQL)と生命の質(QOL)

ケア

認知症ケアに関する問題は、これまで介護技術に問題として認識されていたが、実は多くの倫理的ジレンマを含んでいます。具体的にいうと、認知症の進行とともに、自分のことを自分でできなくなる自立の障害や、自分のことを自分で決めることができなくなる自律の障害が起こり、倫理的に考慮すべき問題が起こってきます。認知症のなかでも、アルツハイマー型認知症は、症状が進行性かつ不可逆性であり、認知症の人は記憶力、認知機能、自己認識、自己コントロールなどを失うことの不安とつねに向きあっていなければいけません。認知症の終末期には嚥下困難になり、延命治療である人工的水分栄養補給をどうするかなどの命に係わる重大な倫理的問題が起こってきます。

人間の尊厳と認知症ケア

介護保険制度の理念に「人間の尊厳と理念に立つ社会保障の体系として、高齢者の自立を支援し、人生の最期まで人間としての尊厳を全うできるよう支援すること」とあるように、たとえ認知症になったとしても、社会の一員として尊厳を持って扱われる必要があります。

今まで認知症のなかでのアルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞の病理学的変性が原因で起こる病気という点に主眼が置かれていました。そのため、人格は変化し、しだいに失われ、崩壊してしまうと考えられ、認知症の人は「一人の生活者」でなく単なる患者として存在し、認知機能が低下してきた人を「抜け殻」と呼ばれ、人間の尊厳の領域から追い出されていた時代もありました。

パーソンセンタードケアを提唱しているトム・キットウッドは、認知症の人を「抜け殻」「人格崩壊」などと呼ぶ困った社会的作用、社会の偏見が、認知症の人の「脱人格化」を増長しているとして、この困った社会的作用をなくせば、認知症の人に対する偏見や差別を無くすことができると考えました。認知症人の「now-self(現在のその人)」という人格を認め、尊重し、共感に満ちた関係性を保つことで「脱人格化」を防ぐアプローチをすることが可能になるとしました。このように、社会の人々や介護者が、高度認知症の人々をどのようにみるのかということが、提供されるケアの質やその論理的配慮に影響を与えることになります。

生命の尊厳(SQL)と人間の尊厳と生命の質(QOL)

SQL(Sanctity of Life)は生命の尊厳、生命の神聖性と呼ばれています。SQLは生物学的な意味での生命の神聖さゆえに、人の命は不可侵であり、すべて平等で絶対的な価値があるという考え方です。人間の尊厳は(Dignity)は個人の尊厳とも言われ、すべての個人が互いを人間として尊重する法原理のことです。日本国憲法のなかの最高の価値基準であり、基本的人権、平等権を直接根拠づけるものとされています。

QOL(Quality of Life)は「生命の質」「生活の質」と呼ばれています。生命、生活、人生の質的(Quality)内容を指しています。QOLはケアの現場で日常的に使用されていて、医療やケアの究極的目標は、各個人にとってのQOLを高めること、改善することとされています。介護では、心身の状況に応じた自立支援をすることが、日常動作生活動作(Activities of Daily Living:ADL)の改善につながり、ひいてはQOLを高めることになると言われています。

QOLは他人が判断するものでなく、本人が自分の価値観や人生観に沿って判断すべきものだと思いますが、介護の現場では本人の判断である主観的判断と他者の判断である客観的判断から成り立っています。というのも、認知症の進行に伴って、本人は自己のQOLについて評価できなくなるからです。

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