認知症と似た症状の病気

認知症とは

病気のなかには認知症の症状と似た病気があります。たしかに死んだ脳の神経細胞をよみがえることはありません。しかし記憶障害などの認知機能が低下した状態であっても、適切な治療を受ければ改善する「治る認知症」というものがあります。でも、これは認知症ではありません。

特発性正常圧水頭症(とくはつせいせいじょうあつすいとうしょう)「iNPH:idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus」

特発性正常圧水頭症は脳内に「脳脊髄液(のうせきずいえき)」という水が溜まる病気です。脳脊髄液は脳と脊髄を保護するために循環しています。ところが産出と吸収のバランスが崩れると脳の中央にある脳室(のうしつ)に過剰に溜まり脳を圧迫します。

脳室は風船のような部屋が4つあって、クモ膜下腔につながっています。脳室の毛細血管からは脳脊髄液という無色透明なきれいな液体が1日におよそ500ml産出されます。この液体がクモ膜下腔を循環しながら脳や脊髄を保護しています。

脳脊髄液量は全量で約130mlと言われていて、1日3~4回入れ替わっています。入れ替わる過程において、脳室で産生された脳脊髄液は、脳室経路から流れ出て、脳表クモ膜下腔、脊髄のクモ膜下腔を循環し、最後に頭のてっぺんの静脈に吸収されます。

ところが脳脊髄液の流れが悪くなると脳室に脳脊髄液が溜まり拡大します。これが原因でさまざまな症状が現れる病態が水頭症です。水頭症のなかでも脳圧が高くならない場合があります。これを正常圧水頭症と呼びます。正常圧水頭症は通常、高齢者に起こる病気で、認知症患者の5~10%に潜在的に認められるそうです。

正常圧水頭症には特発性正常圧水頭症(iNPH)と続発性正常圧水頭症の2つの種類があります。続発性正常圧水頭症は、くも膜下出血、髄膜炎、頭部外傷、脳腫瘍などに続発する正常圧水頭症のことで、全体の7~8割を占めています。原因がわからないのが特発性正常圧水頭症で全体の2割~3割を占めます。特発性正常圧水頭症(iNPH)は高齢者の1%程度にみられる頻度の高い疾患です。

特発性正常圧水頭症になると、原因は特定できないにもかかわらず、脳室の拡大が認められます。脳室や髄液腔(クモ膜下腔)が拡大すると周囲の脳を圧迫したり、血流が悪くなることで、認知機能の低下や歩行障害、尿失禁などの症状が現れます。歩きにくくなったり転びやすくなります。集中力もなくなります。特発性正常圧水頭症が発症すると数か月で急速に進行してしまいます。

これらの症状は、高齢者によく見かけるものなので脳萎縮などとの区別も難しいですが、特発性正常圧水頭症も的確に診断できれば、脳へのダメージが少ない段階であれば根治も可能です。脳室に溜まった脳脊髄液を腹腔(ふっこう)にチューブを通して抜き取る「シャント手術」があります。

シャントとはバイパスのことで、脳脊髄液の通路に細いチューブを入れて、皮膚の下を通してお腹や心臓の静脈などの他の場所に液を流すバイパスを埋め込む手術です。これまで脳室から排出する方法が一般的でしたが、脳への負担の少ない腰椎から腹腔につないで排出する方法が普及してきています。

慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)

慢性硬膜下血腫は脳を覆っている硬い膜と脳の間に血液が溜まる病気です。転倒などで頭部に外傷を受けて、3週間から3か月たってから、血腫によって脳が圧迫されて、頭痛や片麻痺、歩行障害、自分が今いる場所や日付がわからなくなる見当識障害などの症状が現れます。

また、食事の時に箸がうまく使えない、足元のちょっとした段差でつまずいたり、尿失禁など認知症ととよく似た症状が現れるのが特徴です。認知症の症状がある80代から90代にも慢性硬膜下血腫が多く見られます。

高齢者だからすぐに認知症と決めないで、転倒があったら慢性硬膜下血腫を疑ってみましょう。慢性硬膜下血腫であれば、脳に溜まった血腫を除去すれば、脳は正常な状態に戻ります。血腫が小さければ自然に吸収されて消えることもあります。

外科手術で硬膜とくも膜の間の血腫を抜き取る方法があります。頭蓋骨に穴を開け、血腫を包んでいる薄い膜にチューブを差し込み吸い出す「穿頭(せんとう)血腫洗浄(せんじょう)ドレナージ術」です。命にかかわる緊急時は、頭蓋骨を大きく開いて血腫を摘出する「開頭術」が選択されます。ただし、血腫の量が少なく、緊急性がない場合は、手術をしないで経過観察ということもあります。

また、手術をしないで浸透圧利尿剤を用いた薬物療法を行う方法もあります。この場合、長期間の連用が必要で入院期間の長期化、電解質異常などの合併症の問題もあります。漢方薬の五苓散(ごれいさん)で経過観察して、2か月後に血腫が消失したという事例もありますが、その方は92歳の高齢で手術を受ける身体的なリスクがありました。いずれにせよ、医者とよく相談しなければいけないでしょう。

甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)

甲状腺機能が低下するメカニズムには2つの種類があります。甲状腺そのものが原因で低下する原発性甲状腺機能低下症と脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンが不足したため甲状腺が刺激されなくなって低下する甲状腺ホルモン不応症です。

原発性甲状腺機能低下症で最も多いのは慢性甲状腺炎(橋本病)です。慢性甲状腺炎は自己免疫疾患の一つです。甲状腺ホルモン不応症は甲状腺ホルモン受容体の先天異常が原因であることが多いです。

新陳代謝を促す甲状腺ホルモンの分泌が減ると、低体温、皮膚の乾燥、便秘、体重の増加、疲労感のほか、記憶障害、集中力の低下、動作がゆっくりになるなど認知症によく似た症状が現れます。

ホルモン補充療法を行えば症状は消えます。投与量が多いと副作用が発生し、やめると再発するので、投与については慎重に調節する必要があります。

せん妄

せん妄とは突然発生して変動する精神機能の障害のことです。せん妄は病名ではありません。異常な精神状態を指すものです。あらゆる種類の錯乱状態を総称する言葉として使用されることもあります。通常は回復可能です。注意力および思考力の低下、見当識障害、意識レベルの変動を特徴とします。多くの病気や薬剤、毒物などがせん妄の原因になりえます。

せん妄と認知症は同時に発生することもありますが、この2つはまったく別のものです。せん妄ではおもに注意力が障害され、認知症ではおもに記憶力が障害されます。せん妄は突然発生し、いつ始まったのかをはっきり特定できます。認知症はゆっくり発生し、いつ始まったのかをはっきり特定できません。

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